ちを感じた。そしては自分の荒唐無稽《こうとうむけい》な小さい頭脳の中に逃げ込んで、いろんな話をみずから考え出した。愛し愛されたい激しい女らしい欲求をもっていた。同年輩の者たちから離れて一人ぽっちで暮らしながら、二、三の想像の友だちをこしらえ出していた。一人はジャンといい、も一人はエティエンヌといい、も一人はフランソアといった。彼はいつもそれらの友だちといっしょにいた。それで、近所の友だちといっしょには決してならなかった。彼はよく眠らなかったし、たえず夢をみた。朝になって寝床から引き起こされても、ぼんやり我れを忘れていて、裸のままの小さい両足を寝台の外にたれたり、またしばしば、一方の足に靴下《くつした》を二枚ともはいたりした。盥《たらい》の中に両手をつき込んで我れを忘れてることもあった。物を書きかけながら、学課を勉強しながら、机に向かったままで我れを忘れてることもあった。幾時間も夢想にふけっていて、そのあとで突然、何にも学び知っていないのに気づいてびっくりした。食事のときに、人から言葉をかけられてはまごついた。尋ねかけられてから一、二分間もたって返辞をした。文句の途中で何を言うつもりだっ
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