弱のいらいらしたパリー婦人の間に交ってこの都会に住んでると、妙に居心地が悪かった。あえて口には出さなかったが、周囲の人々をかなり正確に判断してしまった。しかし彼女はその父と同様に、温良さや謙譲さや自信の不足などによって、臆病《おくびょう》で気が弱かった。主権的な叔母《おば》と圧制を事とする従姉《いとこ》とから、支配されるままになっていた。年老いた父へやさしい長い手紙を几帳面《きちょうめん》に書き送ってはいたが、あえてこうは書き得なかった。
「どうぞ私を連れ帰ってくださいませ!」
そして老いた父も、連れ帰ることを望んではいたがあえてなし得なかった。なぜなら、ストゥヴァン夫人は彼のおずおずした申し出にたいして、グラチアは当地にいてたいへんいいとか、彼といっしょにいない方がはるかにいいとか、彼女の教育のためにまだ滞在していなければいけないなどと、すでに答え返してしまっていたから。
しかし、この南国の小さな魂には流離があまりに悲しくなり、光の方へ飛び帰らざるを得ない時が、ついに到来した。――それはクリストフの音楽会後であった。彼女はそこへストゥヴァン家の人たちとともに行っていた。そして、芸
前へ
次へ
全387ページ中307ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング