並みを見せながら心から笑っていた。またイプセンの物が演ぜられることもあった。社会の柱たる人々にたいする偉人の争闘が、これらの婦人たちの慰みとなったのは、面白い結末と言うべきである。
 次に彼らは皆、芸術談をなす義務があるかのようにおのずから信じていた。それは実にたまらないことだった。ことに婦人らは、昵懇《じっこん》や礼儀や退屈や愚蒙などのために、イプセン、ワグナー、トルストイ、などの話を始めるのであった。一度会話がこの方面に向かってくると、もう引き止める術《すべ》がなかった。その病癖は感染していった。銀行家や仲買人や奴隷売買人らの芸術観を、聞かなければならなかった。クリストフは、返答を避け話頭をそらそうとつとめたが無駄《むだ》だった。彼らは競うて、音楽や高級の詩の話をもちかけてきた。ベルリオーズが言ったように、「その連中はきわめて冷静にそういう言葉を使った。あたかも酒や女やまた他のくだらない事柄をでも話すように。」ある精神病専門の医者は、イプセンの女主人公のうちに、自分の患者の一人の姿を、その方がはるかに馬鹿ではあったが、認めていた。一人の技師は、人形の家[#「人形の家」に傍点]の中で
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