あんたを愛さなくとも、やはり私を愛してくださるの?」
「ああ。」
「そして、もし私が他《ほか》の人を愛しても、やはり私を愛してくださるの?」
「さあ、それは僕にはわからない……そうは思えない……がいずれにしても、お前は、僕が愛すると言う最後の女だろう。」
「でも何か今と変ることがあって?」
「沢山ある。僕もたぶん変るだろう、お前もきっと変ってくる。」
「私が変ったら、どうなるの?」
「たいへんなことになるさ。僕は今のままお前を愛してるんだ。もしお前がまったく別な者になったら、僕はもうお前を愛するかどうか受け合えない。」
「あんたは愛していないのよ、愛していないのよ! そんなへりくつが何になって! 愛するか愛しないか、どっちかだわ。もしあんたが私を愛しているんなら、私が何をしようと、いつでも変らず、そのまま私を愛してくださるはずだわ。」
「それは畜生のような愛し方だ。」
「私はそういうふうに愛してもらいたいのよ。」
「それじゃお前は人を見違えたんだ、」と彼は戯れて言った、「僕はお前が求めるような者じゃない。そんなことは、僕にはしようたってできやしない。それにまた僕はしようとも思わない。」
「あんたは利口なのをたいそう御自慢ね。私よりも自分の知恵の方を余計愛しているんだわ。」
「僕はお前を愛してるんだ、ひどいことを言う奴《やつ》だね、お前が自分の身を愛してるよりもっと深くお前を愛してるんだ。お前が美しくって善良であればあるほど、ますます僕はお前を愛するんだ。」
「まるで学校の先生みたいね。」と彼女はむっとして言った。
「だってさ、僕は美しいものが好きなんだ。醜いものはきらいだ。」
「私のうちにあっても?」
「お前のうちにあるとことにそうだ。」
彼女は荒々しく足をふみ鳴した。
「私は批評されたかありません。」
「それじゃ、僕がお前をどう思ってるか、そしてどんなに愛してるか、それを不平言うがいいよ。」と彼は彼女の心を和らげるためにやさしく言った。
彼女は彼の腕に抱かれるままになって、微笑《ほほえ》みをさえ浮かべ、彼に接吻《せっぷん》を許した。しかしやがて、もう忘れたころだと彼が思ってる時に、彼女は不安そうに尋ねた。
「あんたは私のどういうところを醜いと思ってるの?」
彼は用心してそれを彼女に言わなかった。卑怯《ひきょう》な答えをした。
「何にも醜いと思ってるところはな
前へ
次へ
全148ページ中121ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング