ら、ケリッヒ夫人の褐色の眼とミンナの青い眼との、やさしみのある光を心にいだいていた。手の上には、花のように繊麗《せんれい》な指先の、こまやかな接触を感じていた。そしていまだかつて嗅《か》いだことのない美妙な香《かお》りに、包み込まれ、恍惚《うっとり》となり、ほとんど気を失いかけていた。

 次の日に、約束のとおり、彼はミンナにピアノを教えに来た。それ以来彼は、稽古《けいこ》を口実にして、きまって一週に二回ずつ、午前中にやって来た。そして音楽をひいたり話をしたりして、夕方もどることもしばしばだった。
 ケリッヒ夫人は快く彼に会っていた。彼女は怜悧《れいり》な親切な女であった。夫を失った時は三十五歳だった。そして身も心も若かったが、深くはいり込んでいた社交界から惜気《おしげ》もなく退いてしまった。おそらく彼女は、そこで非常に面白い目に会ってきたし、また、味わいつくしておいてなお味わうことはできないという健全な考えをいだいていたので、たやすく隠退することができたのであろう。彼女はケリッヒ氏の追想に愛着していた。けれども、いっしょに生活していた間、愛に似た感情を彼にたいしていだいたことがあるの
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