はアフリカや極東と取引をしてる商館にはいっていた。新しいドイツ人の一つの型《タイプ》を具えていた。そういう型のドイツ人らは、民族性たる古い理想主義を嘲《あざけ》って、それを脱却するようなふうを装い、また戦勝に酔って、力と成功とにたいし、自分らがそれをもちつけないことを示す一種の崇拝心をいだいている。けれども、一国民の古来の性質を一挙に変化せしむることは困難であるから、押えつけられた理想主義は、言葉や、態度や、精神上の習慣や、家庭生活の些細《ささい》な行為に引用せられるゲーテの言葉などのうちに、たえず現われ出していた。良心と功利との独得な混合であり、古いドイツ中流社会の主義の正直さと、新しい雇用店員階級の卑しさとを、たがいに一致させんための不思議な努力であった。この混合こそ、かなり嫌悪《けんお》すべき偽善の匂いをもたざるをえないものであった――なぜなら、それはドイツの力と貪婪《どんらん》と利益とをもって、あらゆる権利と正義と真理との象徴だとするにいたったから。
 クリストフの公正な心はそれに深く傷つけられた。伯父《おじ》が正当であるかどうかを彼は判断することができなかったけれども、伯父を
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