るほど高価だった。クリストフはその新しい衣裳をつけるとたいへんぎごちなかった。それに慣らすために、何度も衣裳をつけて楽曲を稽古《けいこ》させられた。一月も前から、彼はもうピアノの腰掛を離れなかった。また挨拶《あいさつ》のしかたも教えられた。自由になる時は一瞬もなかった。彼は苛《い》ら立っていたが、しかしあえて逆らいはしなかった。晴れの業《わざ》をやるんだと考えていたから。そして得意でもあったが心配でもあった。そのうえ、皆から大事にされていた。風邪《かぜ》をひきはしないかと気遣われた。絹ハンカチで首を巻いてもらった。湿らないように靴をあたためてもらった。食卓ではいちばんいい物を食べさせられた。
 ついに晴れの日がやってきた。理髪師は身支度の指図にやって来て、クリストフの硬《かた》い髪を縮らしてくれた。羊のような巻毛をこしらえないうちは彼を放さなかった。家じゅうの者がクリストフの前に並んで、りっぱになったと言った。メルキオルは彼の顔を見調べ、方々から眺めた後、額をたたいて、大きな花を捜しに行き、それを彼のボタンの穴にさしてくれた。しかしルイザは、彼の姿を見ながら、両腕を天の方へ差上げて、猿《さる》のようだと悲しげに叫んだ。その言葉はひどく彼をがっかりさした。彼自身もその服装を誇っていいか恥じていいかわからなかった。本能的に彼は屈辱を感じた。音楽会ではなおさらであった。彼にとってはそういう屈辱の感が、この記念すべき一日のおもな感情であることになった。

 音楽会はこれから始まるところであった。坐席の半ばは空《あ》いていた。大公爵はまだ来ていなかった。こういう場合にはいつもあるとおり、一人の親切な物知りの友人がやはりいて、宮邸には評議会があるので大公爵は来られまいという消息をもたらしてきた。確かな筋から出た消息だそうだった。メルキオルは落胆し、気をもみ、行ったり来たりし、窓から覗《のぞ》き出した。ジャン・ミシェル老人の方も心痛していた。しかしそれは孫のことについてであった。彼はやたらに世話をやいていた。クリストフは家の者たちの熱心さにかぶれていた。自分の楽曲についてはなんらの不安も感じなかった。ただ公衆に向かってなすべき挨拶《あいさつ》のことを考えては、心を乱していた。そしてあまり考えてばかりいたので、それが苦悶《くもん》の種とまでなった。
 そのうちに、いよいよ始めなけれ
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