れば、山の霊達から聞き出せるにちがいない、と禿鷹は考えて帰ってゆきました。

      二

 翌日になると、禿鷹は高い山の上へ飛んでいって、その山の霊にたずねました。
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
 岩の中から山の霊が答えました。
「向こうのだ」
 禿鷹は向こうの山に飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
「向こうのだ」
 禿鷹は向こうの山に飛んでゆきました。しかしその山の霊も一番高い山は向こうのだと答えます。そんなふうにして、禿鷹《はげたか》はまた方々飛び廻りましたが、どれ一つ自分が一番高いと言う山はありませんでした。
「これは困った。山の神に言われたとみえて、どの山もへりくだってばかりいて、向こうのだ。向こうのだ……と言うんじゃあ、いくら聞いてもわかりっこない。そうだ、も一度山の神の所に行ってみよう」
 そこで禿鷹は、山の神の所へ飛んで行きました。
「昨日はありがとうございました。おかげで山の霊《れい》達は少しもいばらなくなりました。けれど困ったことには、みんなへりくだってばかりいて、どれが一番高い山ですかと聞いても、向こうのだ、向こうのだと答えるきりです。それでどうか、も一度お骨折《ほねお》り下すって、いばりもしなければへりくだりもしないように、よく言いきかして下さいませんでしょうか。そうでなければ、どれが一番高い山だか、私共は聞き出すことが出来ませんから」
「よろしい」と山の神は言いました。「お前の言う通りに言いきかしておいてやろう。どの山が一番高いか、わしから教えてやってもよいが、今まで山の霊達にたずねたのだから、やはり山の霊達に聞くがよい。山の霊達には、お前の望み通りわしが言いきかしておいてやる」
「どうぞお願いします」
 そして禿鷹は喜んで帰ってゆきました。

      三

 さて翌日になると禿鷹《はげたか》は、こんどこそは大丈夫だと思って、威勢《いせい》よく、飛んでゆきました。
「もしもし、国中で一番高い山はどれですか」
 するとその山の霊《れい》は、いばりもしなければへりくだりもしないで、岩の中から冷《ひやや》かに答えました。
「どれだか知らない」
 禿鷹は当《あて》がはずれました。それでもなお、方々の山へ行って、一々たずねてみましたがどの山の霊もみな、どれだか知らない、と同じ冷かな答えをするきりです。
 そうなると禿鷹も、山の霊達から聞き出すことはあきらめるほかはありません。それかって、山の神へまた何とか頼みに行くのもしゃくです。はて何かよい工夫《くふう》はあるまいかと、一晩中考えた末、思いついたのは雷《らい》の神のことでした。
「雷の神なら一番高い山を知っているはずだ。がただ聞いたんでは、俺《おれ》の受持ちじゃないと言って教えてくれないかも知れない。これは一つ、雷の神の気短《きみじ》かなのにつけこんで、工夫をめぐらすに限る」

      四

 禿鷹は翌日、思案《しあん》を定めて、雷の神の岩屋へやって行きました。
「今日はよいお天気のようですが、お休みになるのですか」
「そんなことを聞いてどうするのだ」と雷《らい》の神は破鐘《われがね》のような声で言いました。
「いえ、どうもいたしませんが いつも[#「いたしませんが いつも」はママ]あなたが低い所でばかり雷を鳴らしていらっしゃるので、お疲れになったのじゃないかとおもいまして、へへへ」と禿鷹《はげたか》は変な笑い方をしました。
「何だ、低い所でばかり雷を鳴らしてるから疲れる……」
「私共から見ますと、あなたが低い平地の上にばかり雷を鳴らしていらっしゃるのが、意気地《いくじ》ないような、おかしいような気がします 私共のような[#「気がします 私共のような」はママ]鳥でさえ、高い山の上を飛び廻ってるのですもの、あなたも一つ奮発《ふんぱつ》して、国中で一番高い山の上に雷を落としてみられたら、いかがなものでしょう。それともあなたは、そんなに高い所へは昇れないとおっしゃるのですか」
 気の短い雷の神は、それを聞いてもうむかっ腹を立てて、いきなり立ち上がりました。
「よし、それではこれから、国中で一番高い山の上に、大空の上から雷を落としてみせるぞ」
「それは結構でございますな。謹《つつし》んで拝見《はいけん》いたしましょう」
 雷の神がうまく策略《さくりゃく》にのったので、禿鷹はしめたと思って微笑《ほほえ》みました。雷が落ちるのを見定《みさだ》めれば、どれが一番高い山だかすぐにわかるし、またそれで、今まで嘘をついた山の霊を、罰するわけにもなるのです。

      五

 そこで禿鷹《はげたか》は、ある高い山の上に飛び上がって、その頂《いただき》の岩の影から、四方を隈《くま》なくうかがい始めました。
 谷間から遠く低く平
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