ナルディエのみじめな徳性は、もはや矯正すべからざるものになっていた。彼はアメリカへ行っても、ヨーロッパにいる時と同様だった。悪人が手を触るる時には、善行も往々にして腐敗し、それから更に悪事が出てくるようになる。マリユスからもらった金で、テナルディエは奴隷売買を始めた。
テナルディエが出てゆくや否や、マリユスは庭に走っていった。コゼットはまだ散歩していた。
「コゼット! コゼット!」と彼は叫んだ。「おいで、早くおいで! すぐに行くのだ。バスク、辻馬車《つじばしゃ》を一つ呼んでこい。コゼット、おいで。ああ、僕の命を救ってくれたのはあの人だった。一刻も遅らしてはいけない。すぐ肩掛けをつけるんだ。」
コゼットは彼が気でも狂ったのかと思ったが、その言葉どおりにした。
彼は息もつけないで、胸に手をあてて動悸《どうき》を押ししずめようとしていた。彼は大胯《おおまた》に歩き回った。コゼットを抱いて言った。
「ああ、コゼット、僕は実にあわれむべき人間だ!」
マリユスは熱狂していた。彼はジャン・ヴァルジャンのうちに、高いほの暗い言い知れぬ姿を認め始めた。非凡な徳操の姿が彼に現われてきた。最高にして
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