の中に腕を差し伸ばした。
その間テナルディエは言い続けていた。
「男爵、その殺された青年は、ジャン・ヴァルジャンの罠《わな》にかかったどこかの金持ちで、大金を所持していたものだと思える理由が、いくらもあります。」
「その青年は僕だ、その上衣はこれだ!」とマリユスは叫んだ。そして血に染《そ》んだ古い黒の上衣を床《ゆか》の上に投げ出した。
彼はテナルディエの手から布片を引ったくり、上衣の上に身をかがめ、裂き取られた一片を裂けてる据《すそ》の所へあててみた。裂け目はきっかり合って、その布片のために上衣は完全なものとなった。
テナルディエは茫然《ぼうぜん》とした。「こいつはやられたかな、」と彼は考えた。
マリユスは身を震わし、絶望し、また驚喜して、すっくとつっ立った。
彼はポケットの中を探り、恐ろしい様子でテナルディエの方へ進み寄り、五百フランと千フランとの紙幣をいっぱい握りつめた拳《こぶし》を差し出し、彼の顔につきつけた。
「君は恥知らずだ! 君は嘘《うそ》つきで、中傷家で、悪党だ! 君はあの人に罪を着せるためにやってきて、かえってあの人を公明なものにした。あの人を破滅させようとし
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