言った。「かまわずにはいって下さい。お爺さんはもう寝床から動けないので、鍵《かぎ》はいつも扉《とびら》についています。」
医者はジャン・ヴァルジャンに会い、彼に話をしかけた。
医者がおりてくると、門番の女は彼に呼びかけた。
「どうでございましょう?」
「病人はだいぶ悪いようだ。」
「どこが悪いんでございましょうか。」
「どこと言って悪い所もないが、全体がよくない。見たところどうも大事な人でも失ったように思われる。そんなことで死ぬ場合もあるものだ。」
「あの人はあなたに何と言いましたか。」
「病気ではないと言っていた。」
「またあなたにきていただけますでしょうか。」
「よろしい。」と医者は答えた。「だが私よりもほかの人にきてもらわなければなるまい。」
三 今は一本のペンも重し
ある晩ジャン・ヴァルジャンは、辛うじて肱《ひじ》で身を起こした。自ら手首を取ってみると、脈が感ぜられなかった。呼吸は短くて時々止まった。彼は今まで知らなかったほどひどく弱ってるのに気づいた。すると、何か最期の懸念に駆られたのであろう、彼は努力をして、そこにすわり、服をつけた。自分の古い労働服を着
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