でいた。」
「でもここは寒うございます。物もよく見えません。そしてジャンさんと言ってくれとおっしゃるのも、あまりひどすぎます。私にあなたなんておっしゃるのもいやです。」
「ところで、さっきここへ来る途中、」とジャン・ヴァルジャンはそれに答えて言った、「サン・ルイ街で私の目についた道具が一つある。道具屋の店先に置いてあった。私がもしきれいな女だったらあの道具をほしがったに違いない。ごくりっぱにできてる新式の化粧台だった。たしかあなたが薔薇《ばら》の木と言っていたあの道具だった。篏木細工《はめきざいく》も施してあった。鏡もかなり大きかった。引き出しもいくつかついていた。実にきれいなものだった。」
「ほんとに人をばかにしていらっしゃるわ!」とコゼットは答え返した。
そしてこの上もないかわいい様子で、歯をくいしばり、脣《くちびる》を開いて、ジャン・ヴァルジャンに息を吹きかけた。それは猫のまねをした美の女神だった。
「私はもう腹が立ってなりません。」と彼女は言った。「昨日《きのう》から、みんなで私にひどいことばかりなさるんですもの。私はほんとに怒っています[#「怒っています」は底本では「恐って
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