前をさえ口外しなかったのは、ことにエポニーヌに会った日でさえ口をつぐんでいたのはどうしたことだったろうか。今となってみれば、彼はその当時の自分の沈黙をほとんど自ら説明に苦しむほどだった。けれどもいろいろ理由も考えられた。自分のそそっかしいこと、コゼットに酔ってしまっていたこと、すべてが恋にのみつくされていたこと、互いに理想の天地に舞い上がっていたこと、またおそらく、その激越な楽しい心の状態にほとんどわからぬくらいの理性が交じっていて、ために漠然《ばくぜん》たる鋭い本能から、あの触れることを恐れていた恐怖すべき事件について、何らの役目もつとめたくなく、ただのがれようとばかり欲していて、その話をしまたは証人となるには同時に告訴者とならざるを得ない地位に自分が立ってるあの事件を、記憶のうちに隠して堙滅《いんめつ》さしてしまおうとしていたこと。それにまた、その数週間は電光のようであって、ただ愛し合うのほか何の余裕もなかった。それからまた、すべてを考量し、すべてをひっくり返してみ、すべてを調べて、ゴルボー屋敷の待ち伏せのことをコゼットに話し、テナルディエという名前を彼女に言ったところで、その結果
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