の墓地と言われていた墓地の最後の墓掘り人であった。その年にこの墓地は廃せられてしまったのである。
またその中には、上にちょっとあげた愉快な青年子爵エスクーブローもいる。彼は絹の靴下《くつした》をはきバイオリンをささげて襲撃が行なわれたレリダ市の攻囲のおりの勇士のひとりだった。エスクーブローはある夜、従妹たるスールディ公爵夫人のもとにいた所を不意に見つけられ、公爵の剣をのがれるためにボートレイ下水道の中に逃げ込んだが、その崩壊孔の中に溺死《できし》してしまった。スールディ夫人はその死を聞いた時、薬壜《くすりびん》を取り寄せて塩剤を嗅《か》ぎ、嘆くのを忘れた。そういう場合には恋も続くものではない。汚水だめは恋の炎を消してしまう。ヘロはレアドロスの溺死体を洗うのを拒み、チスベはピラムスの前に鼻をつまんで「おお臭い!」と言う。([#ここから割り注]訳者注 古代の物語中の話[#ここで割り注終わり])
六 崩壊孔
ジャン・ヴァルジャンは一つの崩壊孔に出会ったのである。
かかる崩壊は、当時シャン・ゼリゼーの地下にしばしば起こったことで、非常に流動性のものだったから、水中工事を困難
前へ
次へ
全618ページ中262ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング