したら、彼はただ暗夜のうちにいるのだと答えたろう。
 本能は彼にいい助言を与えたのである。傾斜をおりてゆけば、実際あるいは救われるかも知れなかった。
 彼は、ラフィット街とサン・ジョルジュ街との下で鷲《わし》の爪《つめ》の形に分岐してる二つの隧道と、アンタン大道の下のフォーク形に分かれてる長い隧道とを、そのまま右にしてまっすぐに進んでいった。
 たぶんマドレーヌの分岐らしい一つの横道から少し先まで行った時、彼は立ち止まった。非常に疲れていた。おそらくアンジュー街ののぞき穴であったろうが、かなり大きな風窓がそこにあって、相当強い光がさし込んでいた。ジャン・ヴァルジャンは負傷してる弟に対するような静かな動作で、マリユスを下水道の底の段の上におろした。マリユスの血に染まった顔は、風窓から来る白い明るみを受けて、墳墓の底にあるもののように思われた。その目は閉じ、髪は赤い絵の具を含んだままかわいてる刷毛《はけ》のようになって額にこびりつき、両手は死んだようにだらりとたれ、四肢《しし》は冷たく、脣《くちびる》のすみには血が凝結していた。血のかたまりが襟飾《えりかざ》りの結び目にたまっていた。シャツ
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