を消してしまうまで、その攻撃を延ばした。軍隊は沸き立った各街路に突進し、あるいは用心して徐々に進み、あるいは一挙に襲撃しながら、右に左に、大なるものは掃蕩《そうとう》し、小なるものは探査した。兵士らは銃を発射する人家の扉《とびら》を打ち破った。同時に騎兵も活動を始めて、大通りの群集を駆け散らした。そしてこの鎮圧はかなりの騒擾《そうじょう》を起こし、軍隊と人民との衝突に特有な騒々しい響きを立てた。砲火と銃火との響きの間々にアンジョーラが耳にしたのは、その騒ぎの音であった。その上彼は担架にのせられた負傷者らが通るのを街路の先端に認めて、クールフェーラックに言った、「あの負傷者らはわが党の者ではない。」
しかしその希望は長く続かなかった。光明は間もなく消えてしまった。三十分とたたないうちに、空中に漂ってたものは消散しつくした。あたかも雷を伴わない電火のようなものだった。孤立しながら固執する者らの上に人民の冷淡さが投げかける鉛のような重い一種の外套《がいとう》を、暴徒らは再び身に感じた。
漠然《ばくぜん》と輪郭だけができかかってきたらしい一般の運動は、早くも失敗に終わってしまった。今や陸軍大臣の注意と諸将軍の戦略とは、なお残ってる三、四の防寨の上に集中されることになった。
太陽は地平線の上に上ってきた。
ひとりの暴徒はアンジョーラを呼びかけた。
「われわれは腹がすいてる、実際こんなふうに何にも食わずに死ぬのかね。」
自分の狭間《はざま》の所になお肱《ひじ》をついていたアンジョーラは、街路の先端から目を離さずに、頭を動かしてうなずいた。
十四 アンジョーラの情婦の名
クールフェーラックはアンジョーラの傍《そば》の舗石《しきいし》の上にすわって、大砲をなお罵倒《ばとう》し続けていた。霰弾《さんだん》と呼ばるる爆発の暗雲が恐ろしい響きを立てて通過するたびごとに、彼は冷笑の声を上げてそれを迎えた。
「喉《のど》を痛めるぞ、ばかな古狸《ふるだぬき》めが。気の毒だが、大声を出したってだめだ。まったく、雷鳴《かみなり》とは聞こえないや、咳《せき》くらいにしか思われない。」
そして周囲の者は笑い出した。
クールフェーラックとボシュエは、危険が増すとともにますます勇敢な上きげんさになって、スカロン夫人のように、冗談をもって食物の代用とし、また葡萄酒《ぶどうしゅ》がないので、人々に快活の気分を注いでまわった。
「アンジョーラは豪《えら》い奴だ。」とボシュエは言った。「あのびくともしない豪勇さはまったく僕を驚嘆させる。彼はひとり者だから、多少悲観することがあるかも知れん。豪《えら》いから女ができないんだといつもこぼしてる。ところがわれわれは皆多少なりと情婦を持っている。だからばかになる、言い換えれば勇敢になる。虎《とら》のように女に夢中になれば、少なくとも獅子《しし》のように戦えるんだ。それは女から翻弄《ほんろう》された一種の復讐《ふくしゅう》だ。ローランはアンゼリックへの面当《つらあて》に戦死をした。われわれの勇武は皆女から来る。女を持たない男は、撃鉄のないピストルと同じだ。男を勢いよく発射させる者は女だ。ところがアンジョーラは女を持っていない。恋を知らないで、それでいて勇猛だ。氷のように冷たくて火のように勇敢な男というのは、まったく前代未聞だ。」
アンジョーラはその言葉をも耳にしないかのようだった。しかし彼の傍にいた者があったら、彼が半ば口の中でパトリア[#「パトリア」に傍点]([#ここから割り注]祖国[#ここで割り注終わり])とつぶやくのを聞き取ったであろう。
ボシュエはなお冗談を言い続けていたが、その時クールフェーラックは叫んだ。
「またきた!」
そして来客の名を告げる接待員のような声を出して付け加えた。
「八斤砲でございます。」
実際新しい人物がひとり舞台に現われてきた。第二の砲門だった。
砲兵らはすみやかに行動を開始して、第二の砲を第一の砲の近くに据えつけた。
それによって、防寨《ぼうさい》の最後はほぼ察せられた。
しばらくすると、急いで操縦された二個の砲は、角面堡《かくめんほう》に向かって正面から火蓋《ひぶた》を切った。戦列歩兵や郊外国民兵らの銃火も、砲兵を掩護《えんご》した。
ある距離をへだてて他の砲声も聞こえた。二門の砲がシャンヴルリー街の角面堡に打ちかかったと同時に、他の二門の砲はサン・ドゥニ街とオーブリー・ル・ブーシュ街とに据えられて、サン・メーリーの防寨を攻撃したのである。四個の砲門は互いに恐ろしく反響をかわした。
それら陰惨な闘犬の吠《ほ》え声は、互いに応《こた》え合ったのである。
今やシャンヴルリー街の防寨を攻撃してる二門の砲のうち、一つは霰弾《さんだん》を発射し、一つは榴弾《り
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