腰掛け、上を下への乱雑な堆積、それから乞食《こじき》さえも拒むような無数のがらくた、そのうちには狂猛と虚無とが同時にこもっていた。民衆のぼろ屑《くず》、木材と鉄と青銅と石とのぼろ屑であって、サン・タントアーヌ郭外が巨大な箒の一掃きでそれらを戸口に押しやり、その悲惨をもって防寨となしたかのようだった。首切り盤のような鉄塊、引きち切られた鎖、絞首台の柱のような角材、物の破片の中に横倒しに置かれてる車輪、それらのものはこの無政府の堂宇に、民衆が受けてきた古い苛責《かしゃく》の陰惨な相貌《そうぼう》を交じえさしていた。実にこのサン・タントアーヌの防寨は、すべてのものを武器としていた。内乱が社会の頭に投げつけ得るすべてのものは、そこに姿を現わしていた。それは一つの戦いではなくて、憤怒の発作だった。その角面堡をまもってるカラビン銃は、中に交じってた数個の霰弾銃《さんだんじゅう》とともに、瀬戸物の破片や、骨片や、上衣のボタンや、また銅がはいってるために有害な弾となる寝室のテーブルの足についてる小車輪までも、やたらに発射した。防寨全部がまったく狂乱していた。名状し難い騒擾《そうじょう》の声を雲の中まで立ち上らしていた。ある瞬間には、軍隊に戦いをいどみながら、群集と騒乱とでおおわれてしまった。燃ゆるがような無数の頭が、その頂をおおい隠した。蟻《あり》のような群集がいっぱいになっていた。その頂上には、銃やサーベルや棍棒《こんぼう》や斧《おの》や槍《やり》や剣銃などがつき立っていた。広い赤旗が風にはためいていた。号令の叫び、進撃の歌、太鼓の響き、婦人の泣き声、餓死の暗黒な哄笑《こうしょう》、などがそこに聞かれた。防寨《ぼうさい》はまったく常規を逸したもので、しかも生命を有していた。あたかも雷獣の背のように電光の火花がほとばしり出ていた。神の声に似た民衆の声がうなっているその頂は、革命の精神から発する暗雲におおわれていた。異常な荘厳さが、巨人の屑籠《くずかご》をくつがえしたようなその破片の堆積から発していた。それは塵芥《ごみ》の山であり、またシナイの山([#ここから割り注]訳者注 モーゼがエホバより戒律を受けし所[#ここで割り注終わり])であった。
上に言ったとおり、この防寨は革命の名においてしかも革命を攻撃したのである。偶然であり、無秩序であり、狼狽《ろうばい》であり、誤解であり、未知数であったこの防寨は、立憲議会と民衆の大権と普通選挙と国民と共和とを向こうにまわしたのである。それはマルセイエーズ([#ここから割り注]フランス国歌[#ここで割り注終わり])にいどみかかるカルマニョールの歌([#ここから割り注]革命歌[#ここで割り注終わり])であった。
狂乱せるしかも勇壮なる挑戦《ちょうせん》であった。なぜなれば、この古い郭外は一個の英雄だからである。
郭外と角面堡《かくめんほう》とは互いに力を合わしていた。郭外は角面堡の肩にすがり、角面堡は郭外に身をささえていた。広い防寨は、アフリカの諸将軍の戦略をも拉《ひし》ぐ断崖《だんがい》のごとく横たわっていた。その洞窟《どうくつ》、その瘤《こぶ》、その疣《いぼ》、その隆肉などは、言わば顔を顰《しか》めて、硝煙の下に冷笑していた。霰弾《さんだん》は形もなく消えうせ、榴弾《りゅうだん》は埋まり没しのみ込まれ、破裂弾はただ穴を明け得るのみだった。およそ混沌《こんとん》たるものを砲撃しても何の効があろう。戦役の最も荒々しい光景になれていた各連隊も、猪《いのしし》のごとく毛を逆立て山のごとく巨大なその角面堡《かくめんほう》の野獣を、不安な目でながめたのである。
そこから約四半里ばかり先、シャトー・ドーの近くで大通りに出てるタンプル街の角《かど》で、ダルマーニュという商店の少しつき出た店先から思いきって頭を出してみると、遠くに、運河の向こうに、ベルヴィルの坂道を上ってる街路の中、坂道を上りきった所に、人家の三階の高さに達する不思議な障壁が見られた。それはあたかも左右の軒並みを連ねたがようで、街路を一挙にふさぐために最も高い壁を折り曲げたがようだった。しかしその壁は、実は舗石《しきいし》で築かれていたのである。まっすぐで、規則正しく、冷然として、垂直になっており、定規をあて墨繩《すみなわ》を引き錘鉛《すいえん》をたれて作られたもののようだった。もとよりセメントは用いられていなかったが、しかもローマのある障壁に見らるるように、そのため建築上の強固さは少しも減じていなかった。高さから推してまた奥行も察せられた。上層と地覆《ちふく》とはまったく数学的な平行を保っていた。灰色の表面には所々に、ほとんど目につかないくらいの銃眼の列が黒い糸のように見えていた。各銃眼の間には一定の等しい距離が置かれていた。街路には目の届くかぎ
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