いす》には、一つにジルノルマン氏がすわり、一つにジャン・ヴァルジャンがすわることになっていた。ジルノルマン氏は席についた。しかしも一つの肱掛《ひじか》け椅子《いす》にはだれもいなかった。
人々は「フォーシュルヴァン氏」の姿を見回した。
彼はもうそこにいなかった。
ジルノルマン氏はバスクに声をかけた。
「フォーシュルヴァンさんはどこにおらるるか知っていないか。」
「はい存じております。」とバスクは答えた。「フォーシュルヴァン様は、お手の傷が少し痛まれて、男爵お二方と会食ができないから、旦那様《だんなさま》によろしく申し上げてほしいと私にお伝えでございました。そして今晩は御免を被って、明朝来るからと申されて、ただ今お帰りになりました。」
その空《から》の肱掛け椅子のために、婚礼の宴は一時|白《しら》けた。しかしフォーシュルヴァン氏は不在でも、ジルノルマン氏がそこにいて、ふたり分にぎやかにしていた。もし傷が痛むようならフォーシュルヴァン氏は早くから床につかれた方がよいが、しかしそれもちょっとしたいたいた[#「いたいた」に傍点]に過ぎない、と彼は断言した。そしてその言葉でもう充分だった。それにもとより、一座喜びにあふれてる中にあってその薄暗い一隅《いちぐう》などは何でもないことだった。コゼットとマリユスはもう幸福の影しか頭に映らないような利己的な至福な瞬間にあった。それにまたジルノルマン氏は妙案を思いついた。「ところでその肱掛け椅子が空《あ》いている。マリユス、お前がそこにすわるがいい。伯母《おば》さんの方に権利はあるんだが、きっとお前に許してくれるよ。その席はお前のだ。それが正当で、また至極おもしろい。好運児と幸運女とは相並ぶべしだ。」人々は皆|喝采《かっさい》した。マリユスはコゼットのそばにジャン・ヴァルジャンの席についた。そして万事うまくいったので、初めジャン・ヴァルジャンの不在を悲しく思っていたコゼットも、ついに満足するようになった。マリユスがジャン・ヴァルジャンの代わりになった時、コゼットはもう神を恨まなかった。彼女は白繻子《しろじゅす》の上靴《うわぐつ》をつけた小さなやさしい足を、マリユスの足の上にのせた。
肱掛《ひじか》け椅子《いす》はふさがり、フォーシュルヴァン氏はなくなってしまい、何も欠けた所はなかった。そして五分もたつうちには、食卓全体はすべて
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