れたばかな祖父《じいさん》をお前は思うとおりにすることができたのだ。お前はそれをよく知っていながら、『いや、彼は王党だ、彼の所へ行くもんか、』と言った。そしてお前は防寨《ぼうさい》に行き、依怙地《えこじ》に生命を捨ててしまった。ベリー公についてわしが言った事柄の腹|癒《い》せだ。実に不名誉なことだ。だがまあ床について、静かに眠るがいい。ああ死んでしまった。これがわしの覚醒《めざめ》だ。」
医者はこんどは両方を心配し出して、ちょっとマリユスのそばを離れ、ジルノルマン氏の所へ行き、その腕を取った。祖父はふり返り、大きく開いた血走ってるように思われる目で彼をながめ、それでも落ち着いて彼は言った。
「いやありがとう。わしは何ともない。わしは一個の男子だ。ルイ十六世の死も見てきた。あらゆる事変を経てきた。だがただ一つ恐ろしいことがある。新聞紙が世に害毒を流すのを考えることだ。でたらめ記者、饒舌家《じょうぜつか》、弁護士、弁論家、演壇、論争、進歩、光明、人権、出版の自由、そういうものがあればこそ、子供は皆こういう姿になって家に運ばれて来るのだ。ああマリユス! 呪《のろ》うべきことだ。殺されてしまった。わしより先に死んでしまった。防寨、無頼漢! ドクトル、君はこの辺に住んでるのでしょう。わしは君をよく知っている。君の馬車が通るのをわしはよく窓から見かけた。わしは誓って言う。わしが今怒ってると思ってはまちがいです。死んだ者に対して怒っても仕方がない。それはばかげたことだ。これはわしが自分で育てた子供です。この子がまだごく小さい時、わしはもう老年になっていた。小さな鍬《くわ》と小さな椅子《いす》とを持ってテュイルリーの園でよく遊んでいた。そして番人にしかられないように、わしは杖の先で、彼が鍬で地面に掘った穴をよく埋めてやった。ところが他日、ルイ十八世を打ち倒せと叫んで、出ていってしまった。それはわしの罪ではない。彼は薔薇色《ばらいろ》の頬《ほお》をし、金髪であった。母親はもう亡《な》くなっていた。小さな子供は皆金色の髪をしてるものだが、なぜでしょう。これはひとりのロアールの無頼漢の子です。だが父親の罪は子供の知ったことではない。わしはこれがほんのこれくらいの大きさの時のことを覚えている。まだド[#「ド」に傍点]という音を言えない時だった。小鳥のようにやさしいわけのわからぬ口をきいて
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