ヲた。火薬の小樽《こだる》は、扉《とびら》のそばの別のテーブルの上にのせて取って置かれた。
パリー中にひろがってゆく国民兵召集の太鼓は、なお絶えず続いていたが、ついにはただ単調な響きになってしまって、彼らの注意をもう少しもひかなかった。その響きはあるいは遠ざかり、あるいは近づいて、陰鬱《いんうつ》な波動をなしていた。
人々は皆いっしょになって、別に急ぎもせず荘重なまじめさで、小銃やカラビン銃に弾をこめた。アンジョーラは防寨《ぼうさい》の外に三人の哨兵《しょうへい》を出し、ひとりをシャンヴルリー街に、ひとりをプレーシュール街に、ひとりをプティート・トリュアンドリー街の角に置いた。
かく防寨を築き、部署を定め、銃には弾をこめ、見張りを出し、もはや人通りもない恐ろしい街路に残り、人の気配《けはい》もしない黙々たる死んだような人家に囲まれ、しだいに濃くなってゆく夕闇《ゆうやみ》のうちに包まれ、一種悲壮な恐ろしい気がこもっていて何かが進んでくるように思われる闇と沈黙とのうちにあって、孤立し武装し決意し落ち着いて、彼らは待ち受けた。
六 待つ間
戦いを待ってるその間、彼らは何
前へ
次へ
全722ページ中603ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング