の馬車から塗抹《とまつ》された百合《ゆり》の花、ノートル・ダーム寺院からもぎ取られた十字架、衰運になったファイエット、零落したラフィット、窮乏のうちに死んだバンジャマン・コンスタン、権力失墜のうちに死んだカジミール・ペリエ、思想の都と労働の都との王国の両首府に同時に発生した政治的病気と社会的病気、すなわちパリーにおける内乱とリオンにおける暴動、両都市のうちに見える同じ烈火の光、民衆の額に見える噴火口の火炎、熱狂せる南部、混乱せる西部、ヴァンデ地方に潜んでるベリーの公妃、密計、陰謀、反乱、コレラ病、すべてそれらの事変の陰惨な騒擾《そうじょう》が思想の陰惨な動揺の上になお加わっていたのである。
五 歴史の知らざる根源の事実
四月の末にはすべてが重大になっていた。発酵は沸騰となっていた。一八三〇年以来、ここかしこに小さな局部的暴動が起こっていた。それらは直ちに鎮定されたがいつも再び起こってきて、下層の広大なる大火を示すものであった。何か恐るべきものが孵化《ふか》されつつあった。可能なる革命の輪郭がまだおぼろげにではあったがほの見えていた。全フランスはパリーをながめ、全パリーは
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