反対を風諭して、近代の最も秀《ひい》でた人物の一であるある国事犯人のことに関してしたためた。「彼の赦免は既に与えられている[#「彼の赦免は既に与えられている」に傍点]、今はただ自分がそれを手に入れることだけである[#「今はただ自分がそれを手に入れることだけである」に傍点]。」ルイ・フィリップはルイ九世のごとく温和でありアンリ四世のごとく善良であった。
そして吾人に言わすれば、歴史中においては善良さはまれなる宝石とも言い得るがゆえに、善良であった者は偉大であった者よりもほとんどまさると言ってもさしつかえない。
ルイ・フィリップは、ある者からは厳重に評価され、またある者からはおそらく苛酷に評価されたために、彼を知っていた一人の者([#ここから割り注]訳者注 本書の著者[#ここで割り注終わり])が、それもはや今日では幽界の身に等しい者ではあるが、歴史に対して彼のために弁護の陳述をなしに来るのは、きわめて至当なことである。その陳述はいかなる内容であろうと、何よりもまず私念なきものであることは明らかである。死者によって書かれた碑文はまじめなものである。一つの霊魂は他の霊魂を慰めることも得よう
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