れ始めている。しかし彼の裁判はまだ第一審に止まっている。
 歴史がその敬すべき自由な音調をもって語る時期は、彼に対してはまだ到来してはいない。この王に対して最後の判決を下すべき時はまだきたっていない。謹厳高名なる歴史家ルイ・ブランも、最初の判定を最近自ら緩和している。ルイ・フィリップはいわゆる二百二十一人および一八三〇年と称せられるところのものによって、すなわち半端議会《はんぱぎかい》と半端革命とによって、ほとんど両者から選出されたのである。そして結局、哲理が身を置くべき高き見地よりするならば、吾人は上《かみ》に暗示しておいたごとく、多少の控え目をもってするでなければ絶対の民主主義の名においてここに判定を与うることはできないであろう。絶対の目よりすれば、二つの権利を、すなわち第一に人間の権利を第二に民衆の権利を外にしては、すべては簒奪《さんだつ》となる。しかしそれらのことを控えておいて、今日吾人が言い得るのは次のことである。すなわち、要するにまたいかなる方面よりながめてもルイ・フィリップは、彼自身だけを引き離しかつ人間的善良さの見地よりするならば、ここに古き歴史の古き言葉を使って言えば
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