ヌそれから、どうしたのか自分でもわかりません、いつか恋するようになりました。ああそのために私はどんなにか心を痛めたでしょう。そして今では、毎日、彼女の家で会っています。父親はそれを知りません。ところが、察して下さい、その親子は遠くに行こうとしています。私たちは晩に庭で会っています。父親につれられてイギリスに行くというんです。それで私は、お祖父様《じいさま》に会って話してみようと考えました。別れるようなことがあれば、私はきっと気が変になります。死にます、病気になります、水に身を投げます。どうしても結婚しなければなりません。狂人《きちがい》になりそうですから。事実はそれだけです。言い落としたことはないつもりです。彼女はプリューメ街の鉄門のある庭に住んでいます。アンヴァリードの方です。」
 ジルノルマン老人は、顔を輝かしてマリユスのそばにすわっていた。彼に耳を傾けその声音《こわね》を味わいながら、また同時にゆるゆるとかぎ煙草《たばこ》を味わっていた。ところがプリューメ街という一語を聞いて、彼は煙草をかぐのをやめ、煙草の残りを膝《ひざ》の上に落とした。
「プリューメ街! プリューメ街だな。……待てよ……その近くに兵営はないかね。……そうだ、それだ。お前の従兄《いとこ》のテオデュールがそのことを言っていた。あの槍騎兵《そうきへい》の将校だ。……いい娘、そう、いい娘だそうだ。……うむ、プリューメ街。昔はブローメ街と言った所だ。……ようやく思い出した。プリューメ街の鉄門の娘のことなら、わしも聞いたことがある。庭の中。パメラ([#ここから割り注]訳者注 リチャードソンの小説中の女主人公[#ここで割り注終わり])のような美人、お前の眼識は悪くない。きれいだという評判だ。ここだけの話だが、あの槍騎兵《そうきへい》のばかめも少しからかっているらしい。どれくらい進んだ話かわしは知らん。だがそんなことはどうでもいい。その上あいつの言うことはあてにならん。ほらをふくからな。マリユス、お前のような若い者が女を思うのはあたりまえだ。お前の年齢《とし》だからな。ジャコバン党より色男の方がわしは好きだ。ロベスピエールにつかまってるより、娘っ児につかまってる方がいい、何人いてもかまわん。わしにしたところで、確かに、革命家どものうちでも女だけは愛したものだ。美人はいつでも美人だからな。それに異論があるはず
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