ていた。しかし地|牢《ろう》はあまりひどすぎるということになって、今日では、一つの鉄の扉と、鉄格子をはめた一つの軒窓と、一つのたたみ寝台と、切り石の床と、石の天井と、石の四壁とでできていて、結局同じではあるが、懲治監房[#「懲治監房」に傍点]と呼ばれている。そこでは昼ごろに少し明りがさすきりである。右のとおり地牢でなくなったそれら監房の弊害は、苦役させなければならない者らを夢想させることにある。
かくてブリュジョンは夢想した、そして一本の綱を携えて懲治監房から出てきた。シャールマーニュの庭では至って危険な人物だとの評判だったので、彼は新館の方に移された。新館で彼が見いだした第一のものは、グールメルであって、第二は一本の釘であった。グールメルはすなわち罪悪であり、釘《くぎ》はすなわち自由であった。
今ちょうどブリュジョンについて完全な概念を得ておくべき時であるから一言するが、彼はやさしい気質を持ってるらしい容貌《ようぼう》をそなえ、深い下心のあるしおれ方をしているが、磨《みが》きをかけた怜悧《れいり》な快男子で、甘える目つきと残忍な微笑とを持ってる盗賊だった。その目つきは意志からきたものであり、その微笑は性質からきたものだった。彼の職業上の最初の研究は、屋根の方へ向けられていた。そして鉛を引きぬく仕事、すなわち鉛板職[#「鉛板職」に傍点]と称する方法で屋根をめくり樋《とい》をはがす仕事に、大なる進歩をもたらした。
脱走計画に好機を与えたのは、ちょうどその時、屋根職人らが監獄の屋根の一部を作りかえ漆喰《しっくい》をぬりかえてることだった。サン・ベルナールの庭は、シャールマーニュの庭やサン・ルイの庭から絶対に行けないことはなかった。上の方に足場やはしごがかけてあった。言い換えれば脱走を導く橋や階段がついていた。
新館は最も裂け目があり、最もこわれかかった建物であって、監獄の弱点となっていた。その壁ははなはだしく風雨にいたんで、寝室の丸天井には木の覆《おお》いを着せなければならなかった。石がはずれて寝床にいる囚人らの上に落ちてきたからである。かく老朽しているにもかかわらず新館のうちに、最も不安な囚人らを入れたのは、監獄の言葉に従えば「重罪事件」を置いたのは、大なる誤ちであった。
新館には順々に重なった四つの寝室があって、更にその上には望楼と呼ばれる一室があった。た
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