》にかけられねえ。横になったら眠るが一番だ。もうポール・ド・コック([#ここから割り注]訳者注 当時の物語作者[#ここで割り注終わり])の話を読む暇もねえ。それに、門のすき間から光がもれていぬ[#「いぬ」に傍点]にめっかるかも知れないからな。」
「そしてまた、」と年上の方はおずおず言った。ガヴローシュと話をし口をきけるのは彼だけだった。「火の粉が藁《わら》の上に落ちるかも知れないや。家を焼かないように用心しよう。」
「家を焼くと言っちゃいけねえ、」とガヴローシュは言った、「殻を燃すというんだ。」
暴風雨はますます激しくなっていた。雷鳴の間々に驟雨《しゅうう》が巨象の背に打ちかかる音が聞こえていた。
「降れ降れ。」とガヴローシュは言った。「家の足にざあざあ水をあけるのを聞くなあおもしろいや。冬ってばかな野郎だな。大事を品物をなくし、骨折りをむだにして、それで俺たちをぬらすこともできねえで、ただ怒ってばかりいやがる、老耄《おいぼれ》の水商人《みずあきんど》めが。」
ガヴローシュが十九世紀の哲学者として平然と何事も受け入れて揶揄《やゆ》したその雷は、大きな電光を一つもたらして、象の腹のすき間から何かがはいってきたかと思われるばかりにひらめいた。それとほとんど同時に激しい雷鳴がとどろき渡った。ふたりの子供は声を立てて、金網がはずれかけたほど急に飛び上がった。しかしガヴローシュはきつい顔を彼らの方へ向け、雷鳴とともに笑い出した。
「静かにしろ。お堂を引っくり返しちゃいけねえ。なるほどいい雷だ。花火線香のような奴《やつ》とは違ってらあ。上できだぞ! アンビギュ座にも負けないできだ。」
そう言って彼は金網をなおし、静かにふたりの子供を寝床の上に押しやり、すっかり長くなるようにその膝《ひざ》を押さえて伸ばしてやり、そして叫んだ。
「神様が蝋燭《ろうそく》をつけてくれるから、俺は自分のを消そう。さあお前たち、眠るんだぞ。眠らないのはごく悪いや。眠らないと門がねばるぜ、上等の言葉で言やあ、口が臭くなる。よく毛布《けっと》にくるまれよ。消すぞ。いいか。」
「ええ、」と年上の方がつぶやいた、「いいよ。頭の下に羽でも敷いたようなの。」
「頭と言うんじゃねえ、」とガヴローシュは叫んだ、「雁首《がんくび》と言うんだ。」
ふたりの子供は互いに抱き合った。ガヴローシュはその位置を蓆《むしろ》
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