網をさしながらガヴローシュに尋ねた。
「それはね、」とガヴローシュはおごそかに言った、「鼠よけだ。もうねくたばれ。」
けれども彼は、年のゆかないふたりに少し教え込んで置くがいいように思って、続けて言った。
「それは動植物園のものだぜ。荒い獣に使うやつなんだ。倉いっぱいある。壁を乗り越え、窓にはい上り、扉《とびら》をあけさえすりゃあいいんだ。いくらでも取れる。」
そう言いながら彼は、毛布の切れを年下の方にすっかり着せてやった。すると子供はつぶやいた。
「ああこれはいい、あたたかい。」
ガヴローシュは満足そうな目で毛布をながめた。
「それも動植物園のものだ。」と彼は言った。「猿《さる》のを取ってきたんだ。」
そして年上の方に、下に敷いてるごく厚いみごとに編まれた蓆をさし示しながら、彼は言い添えた。
「それはキリンのだぜ。」
しばらくして彼はまた言った。
「獣は皆そんなものを持ってる。俺《おれ》はそれを取ってきてやったんだ。取ったって奴《やつ》ら怒りゃしない。これは象にやるんだ、と俺は言ってやった。」
彼はまたちょっと黙ったが、再び言った。
「壁を乗り越えるんだ、政府なんかへとも思わない。それだけだ。」
ふたりの子供は惘然《ぼうぜん》とした畏敬の念でその知謀ある大胆な少年をながめた。少年は彼らと同じく宿もなく、同じく世に孤立の身であり、同じ弱年ではあったが、何かすばらしい万能なものを持っており、あたかも超自然的な者のようであって、その顔つきには老手品師のような渋面と最も無邪気なかわいい微笑とがいっしょに浮かんでいた。
「それでは、」と年上の方は恐る恐る言った、「巡査《おまわり》さんもこわくないんですか。」
ガヴローシュはただこう答えた。
「巡査《おわまり》さんなんて言うやつがあるか、いぬ[#「いぬ」に傍点]と言うんだ。」
年下の方は目を見張っていたが、何とも口はきかなかった。兄の方がまんなかにいて彼は蓆《むしろ》の端になっていたので、ガヴローシュは母親のように彼に毛布をくるんでやり、古いぼろ布を敷いて頭の下の蓆を高めて枕になるようにしてやった。それから彼は年上の方へ向いた。
「どうだ、いい具合だろう。」
「ええ。」と年上の方は救われた天使のような表情をしてガヴローシュを見ながら答えた。
ずぶぬれになっていたふたりのあわれな子供も、少し身体があたたまって
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