つの羽軸に外ならなかった。彼はそれを両方の鼻の穴に差し込んだ。すると鼻の形がまったく異なってしまった。
「すっかり変わったよ、」とガヴローシュは言った、「その方が男っぷりがいいや、いつもそうしてる方がいいね。」
モンパルナスは好男子であったが、ガヴローシュはひやかしたのだった。
「冗談はぬきにして、」とモンパルナスは尋ねた、「これでどうだろう。」
彼は声まで変わっていた。一瞬間のうちにモンパルナスは別人になってしまった。
「まったくポリシネル([#ここから割り注]道化者[#ここで割り注終わり])だ。」とガヴローシュは叫んだ。
ふたりの子供はそれまで彼らの言葉に耳も傾けないで、指先で鼻の穴をほじくっていたが、ポリシネルという言葉を聞いて近寄ってき、始めておもしろがり感心しだしてモンパルナスをながめた。
ただ不幸にもモンパルナスは安心していなかった。
彼はガヴローシュの肩に手を置き、一語一語力を入れて言った。
「いいかね。俺がもし番犬と短剣と一件とを組んで広場んでもいるんなら、そしてお前が十スーばかんふんばってでもくれるんなら、少し手を貸さんもんでもねえんだがね、今はぼんやりふんぞってもおれんからな。」
その変な言葉を聞いて、浮浪少年は妙な態度をとった。彼は急いでふり返り、深く注意をこめてその小さな輝いた目であたりを見回し、そして数歩向こうに、こちらに背を向けて立ってるひとりの巡査を見つけた。ガヴローシュは思わず「なるほど」と言いかけたが、すぐにその言葉をのみ込んでしまって、それからモンパルナスの手を握って打ち振りながら言った。
「じゃ失敬。俺《おれ》は餓鬼どもをつれて象の所へ行こう。もし晩に用でもあったら、あすこへこいよ。中二階に住んでるから。門番もいやしねえ。ガヴローシュ君と尋ねて来りゃあすぐわかるよ。」
「よし。」とモンパルナスは言った。
そして彼らは別れて、モンパルナスはグレーヴの方へ、ガヴローシュはバスティーユの方へ向かった。五歳の子供は兄に連れられ、兄はガヴローシュに連れられて、何度もふり返っては、「ポリシネル」が立ち去るのをながめた。
巡査がいることをモンパルナスがガヴローシュに伝えた変な言葉には、種々の形の下に十何回となくくり返されたん[#「ん」に傍点]という音の合い図を含んでいるのだった。この別々に発音されないで巧みに文句のうちに交じえ
前へ
次へ
全361ページ中140ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング