の恐怖の大きさに正比例するものである――日の出に、コゼットは目をさまして、前夜の恐怖を夢のように思いながら自ら言った。「何を私は考えたのだろう。先週の晩庭で聞いたと思ったあの足音のようなものだろう。暖炉の煙筒の影のようなものだろう。私は今ばかげた臆病者《おくびょうもの》になりかけたのだろうか。」雨戸のすき間を緋色《ひいろ》に染めてダマ織りの帷《とばり》をまっかに浮き出さした日の光は、彼女の心をすっかり落ち着かして、頭の中にあったものはすべて、あの石までも、消えうせてしまった。
「庭に丸い帽子の男がいなかったと同じように、腰掛けの上にも石はなかったのだろう。ほかの事と同じように、あの石もただ夢で見ただけに違いない。」
彼女は着物を着、庭におり、腰掛けの所に走って行ったが、ぞっと身に冷や汗を感じた。石はそこにあった。
しかしそれは一瞬間のことだった。夜に恐怖を起こすものも、昼には好奇心を起こすようになる。
「まあ、ちょっと見てやろう。」と彼女は言った。
彼女はかなり大きなその石を持ち上げた。下に手紙のようなものが置いてあった。
それは白い紙の封筒だった。コゼットはそれを取り上げた。表にはあて名も書いてなく、裏には封もしてなかった。けれども開いたままのその封筒は空《から》ではなかった。中に紙がはいってるのが少し見えていた。
コゼットはそれを調べてみた。それはもう恐怖でもなく、好奇心でもなく、心配の初まりだった。
彼女は封筒からその中のものを引き出した。紙をとじた小さな帳面で、各面にはページ数がついていて、数行の文字が認めてあった。ごく細かな字で、かなりみごとな筆跡だとコゼットは思った。
コゼットは名前をさがしたが、どこにもなかった。署名をさがしたがなかった。いったいだれにあてられたものだろうか? 彼女の腰掛けの上に置かれてる所を見ると、おそらく彼女にあてられたものであろう。しかしいったいだれからよこしたものであろうか? 不可抗な魅惑に彼女はとらえられた。自分の手の中に震えてる紙から目をそらそうとして、空を見、街路を見、朝日を浴びてるアカシヤの木を見、隣の屋根の上に飛んでる鳩《はと》を見たが、その視線はすぐ手紙の上に落ちてきた。そして中に何が書いてあるかを見てみなければならないように思った。
彼女が読んだことは次のとおりだった。
四 石の下の心
前へ
次へ
全361ページ中118ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング