、自然に市長様も子供といっしょにお帰りなすったと思うに違いありません。そういたせば少しも嘘《うそ》を言わないですみます。」
マドレーヌ氏はしばらく考えてるようだったが、それから落ち着いた重々しい調子で言った。
「いや、私はあの女《ひと》に会わなけりゃならない。たぶん、私は急ぐんだから。」
修道女はその「たぶん」という語に気づかないらしかった。しかしそれは、市長の言葉に曖昧《あいまい》な特殊な意味を与えるものだった。彼女はうやうやしく目を伏せ声を低めて答えた。
「それでは、あの女《ひと》は寝《やす》んでいますが、おはいり下さいませ。」
彼は扉《とびら》の具合いが悪くてその音が病人の目をさまさせるかも知れないことをちょっと注意して、それからファンティーヌの室にはいり、その寝台に近づいて、帷《とばり》を少し開いてみた。彼女は眠っていた。胸から出る息には悲痛な音が交じっていた。その音はその種の病気に固有なものであって、眠りについてる死に瀕《ひん》した子供のそばで徹宵《てっしょう》看護する母親らの胸を痛ましめるところのものである。しかしその困難な呼吸も、彼女の顔の上にひろがって彼女の眠った
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