のジャンとも言われていた。そんなに力が強かったんだ。」
明らかにまじめに誠実になされたその三人の断定をきくたびごとに、傍聴人の間には被告の不利を予示するささやきが起こった。新しい証言が前の証言に加わってゆくごとに、そのささやきはますます大きくなり長くなった。被告の方は、それらの証言を例のびっくりしたような顔つきで聞いていた。反対者から言わすれば、それは彼の自己防衛の重なる手段であった。第一の証言に、両側にいた二人の憲兵は彼が口のうちでつぶやくのを聞いた。「なるほど彼奴《あいつ》がその一人だな!」第二の証言の後、彼はほとんど満足らしい様子ですこし高い声で言った、「結構だ!」三番目には彼は叫んだ、「素敵だ!」
裁判長は彼に言葉をかけた。
「被告、ただいま聞いたとおりだ。何か言うことがあるか。」
彼は答えた。
「私は、素敵だ! と言うのだ。」
喧騒《どよめき》が公衆のうちに起こって、ほとんど陪審員にまでおよんだ。その男がもはや脱《のが》れられないのは明白であった。
「守衛たち、」と裁判長は言った、「場内を取り静めよ。本官はこれより弁論の終結を宣告する。」
その時、裁判長のすぐ傍に何
前へ
次へ
全639ページ中590ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング