ことができなかった。
時々彼は歩を進めた、そしてその扉《とびら》に近づいていった。
もし耳を澄ましたならば、雑然たるささやきのような隣室の響きを彼は聞き取り得ただろう。しかし彼は耳を澄まそうとしなかった、そして何物をも聞かなかった。
突然、自分でもどうしてだか知らないうちに、彼は扉のそばに自分を見いだした。彼は痙攣的《けいれんてき》にその取っ手をつかんだ。扉は開いた。
彼は法廷のうちにあった。
九 罪状決定中の場面
彼は一歩進み、後ろに機械的に扉をしめ、そしてそこに立ちながら眼前の光景をながめた。
それは十分に燈火《あかり》のついていない広い室であって、あるいは一せいに騒ぎ立ち、あるいはまたひっそりと静まり返っていた。刑事訴訟の機関が、その賤《いや》しい痛ましい荘重さをもって群集のうちに展開していた。
彼が立っている広間の一|隅《ぐう》には、判事らがぼんやりした顔つきをしすり切れた服を着て、爪をかんだり目を閉じたりしていた。他の一隅には粗服の群集がいた。それからまた、種々の姿勢をした弁護士らや、正直ないかめしい顔の兵士ら。汚点《しみ》のついてる古い壁板、きた
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