ふけりながら彼はふとふり返った。そして彼の目は、彼を法廷から距《へだ》ててる扉《とびら》の銅の取っ手にぶつかった。彼はほとんどその扉を忘れていたのである。彼の視線は初めは穏かにその銅の取っ手に引きつけられてとどまり、次に驚いてじっとそれに据《すわ》り、そしてしだいに恐怖の色を帯びてきた。汗の玉が髪の間から両の顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》に流れてきた。
ふと彼はおごそかにまた反抗的に何ともいえぬ身振りをした。それは、「馬鹿な[#「馬鹿な」に傍点]! だれがいったい私にこんなことを強いるのか[#「だれがいったい私にこんなことを強いるのか」に傍点]?」という意味らしく、またその意味がよく現われていた。それから彼は急に向き返って、自分の前に今はいってきた扉のあるのを見、その方に歩いてゆき、それを開いて出て行った。そしていまやもう彼はその室の中にはいないのだった。室の外に、廊下に出ているのだった。廊下は狭く長く、段々や戸口に仕切られ、種々折れ曲がっており、ここかしこに病人用の豆ランプに似た反照燈がついていた。これを彼は先刻通ってきたのである。彼はほっと息をついた。耳を
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