ていた。人の心は時として、ただ惘然《ぼうぜん》と外界をながめることに満足し、ほとんど何事をも考えないことがある。しかし、かく種々の事物を初めて見、しかもそれで見納めとなることは、いかに悲しいまた深刻なことであろう! 旅をすることは、各瞬間ごとに生まれまた死ぬることである。おそらく、彼はその精神の最も空漠《くうばく》たる一|隅《ぐう》において、移り変わりゆく眼界と人間の一生とを比べてみたであろう。人生のあらゆる事物は絶えず吾人《ごじん》の前を過ぎ去ってゆく。影と光とが入れ交じる。眩惑《げんわく》の輝きの後には陰影が来る。人はながめ、急ぎ、手を差し出し、過ぎゆくものをとらえんとする。各事変は道の曲がり角である。そして突然人は老いる。ある動揺を感ずる。すべては暗黒となる。暗い戸が開かれているのがはっきりと見える。人を引いていた人生の陰暗な馬は歩みを止める。そして人は覆面の見知らぬ男が暗やみのうちにその馬を解き放すのを見る。
旅客がタンクの村にはいるのを学校帰りの子供らが見たのは、もう薄暗がりの頃だった。一年の中でも日の短い季節であった。彼はタンクに止まらなかった。彼がその村から出た時、道に
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