の歌を吹きます。時々は彼らにも神様のことを話してきかせなければなりません。物を恐《こわ》がっている司教のことをきいたら彼らは何と申すでしょう。もし私があそこへ行かなかったら彼らは何と申すでしょう。」
「けれども閣下、山賊が! もし山賊にお出会いなされたら!」
「いや、」と司教は言った、「それも考えています。御道理《ごもっとも》です。山賊に出会うかも知れません。彼らもまた神様のことを話してきかせられる必要があるに違いありません。」
「ですけれども彼らは徒党を組んでいます。狼《おおかみ》の群れでございます。」
「村長どの、イエスが私を牧人《ひつじかい》にされたのは、まさにそれらの群れの牧人にされたのかもわかりません。だれが神の定められた道を知りましょう。」
「閣下、彼らはあなたの持物《もちもの》を奪うでしょう。」
「私は何も持っていません。」
「あなたを殺すかも知れません。」
「他愛もないことをつぶやいて通ってゆく年老いた牧師をですか? ばかな! それが何になるでしょう。」
「ああそれでも、もしお出会いなされたら!」
「私は彼らに貧しい人々のための施しを求めましょう。」
「閣下、どうか行か
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