供が連れてきたその婆さんの簡単な言葉に、彼の背には汗が流れた。自分を離した手がやみの中に後ろから現われて、自分を再びつかもうとしているのを、彼は目に見るような気がした。
彼は答えた。
「そうだよ、貸し馬車をさがしてるところなんだが。」
そして彼は急いでつけ加えた。
「しかしこの辺には一台もないよ。」
「ございますさ。」と婆さんは言った。
「どこにあるんだい。」と車大工は言った。
「私どもに。」と婆さんは答えた。
旅客は慄然《りつぜん》とした。恐るべき手は再び彼を捕えたのだった。
婆さんはなるほど一種の籠《かご》馬車を物置きに持っていた。車大工と馬丁とは、旅客が自分たちの手から離れようとしているのに落胆して、言葉をはさんだ。
「ひどいがた馬車だ。――箱がじかに心棒についてやがる。――なるほど中の腰掛けは皮ひもでぶら下げてあるぜ。――雨が降り込むぜ。――車輪は湿気にさびついて腐ってるじゃねえか。――あの小馬車と同じにいくらも行けるものか。まったくのがたくり馬車だ。――こんなものに乗ったら旦那《だんな》は災難だ。」――などと。
なるほどそのとおりであった。しかしそのがた馬車は、その
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