くすには実例を示すべきです。私は単に警視ジャヴェルの免職を求めます。」
 それらのことは、卑下と自負と絶望と確信との調子で語られた、そしてその異常に正直な男に何ともいえぬ一種のおかしな荘重さを与えていた。
「まあ今にどうとかなるでしょう。」とマドレーヌ氏は言った。
 そして彼は手を差し出した。
 ジャヴェルは後に退《さが》った。そして荒々しい調子で言った。
「それは御免こうむります、市長殿。そんなことはあり得べからざることです。市長が間諜《かんちょう》に向かって握手を与えるなどということが。」
 彼はそしてなお口の中でつけ足した。
「そうです、間諜です。警察権を濫用《らんよう》して以来、私は一個の間諜にすぎません。」
 それから彼は低く頭を下げて、扉の方へ進んだ。
 扉の所で彼はふり向いて、なお目を伏せたまま言った。
「市長殿、私は後任が来るまで仕事は続けて致しておきます。」
 彼は出て行った。そのしっかりした堅固な足音が廊下の床《ゆか》の上を遠ざかってゆくのを聞きながら、マドレーヌ氏は惘然《ぼうぜん》と考えに沈んだ。
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   第七編 シャンマティユー事件


    
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