つば》をはきかけた。
マドレーヌ氏は顔をふいてそして言った。
「ジャヴェル君、この女を放免しておやりなさい。」
ジャヴェルはその瞬間気が狂ったかと思った。彼はその一瞬の間に、相ついでそしてほとんどいっしょに、いまだかつて知らないほどの種々の激情を経験した。醜業婦が市長の顔に唾を吐きかけるのを見たこと、それはいかにも奇怪千万なことで、いかに恐ろしい想像をたくましゅうしてみても、あり得べきことだと信ずるのでさえすでに冒涜《ぼうとく》であるような気がした。また他方には、この女はいったい何者で、また市長は何者であろうかと考えて、両者の間に忌むべき関係を心の底でふと立ててみた。そして女の奇怪な侮辱のうちに何かごく簡単な理由を想像してみて慄然《りつぜん》とした。しかしながら、市長が、行政官が、静かに顔をふいて、この女を放免しておやりなさい[#「この女を放免しておやりなさい」に傍点]と言うのを見た時に彼は、にわかに茫然《ぼうぜん》としてしまった。何の考えも言葉も出てこなかった。驚駭《きょうがい》の度が彼にはあまり大きかった。彼は口をきき得ないでぼんやり立ちつくしていた。
また市長の言葉は、ファ
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