当のことを言うんだ。時機至った時に勇ましき決心の臍《ほぞ》を固め、シルラもしくはオリゲネスのごとく後ろを顧みざる者は、幸福なるかな!」
ファヴォリットは深い注意を払ってそれを聞いていた。
「フェリックス、」と彼女は言った、「何といい言葉でしょう。あたしそういう名前が好きよ。ラテン語だわね。繁昌《はんじょう》という意味でしょう。」
トロミエスは言い続けた。
「市民よ紳士よ騎士よわが友よ! 諸君は、何らの刺激をも感ずることを欲せず、婚姻の床にもはいらず、恋をないがしろにせんと欲するか。それよりたやすいことはない。ここにその処方がある、曰《いわ》く、レモン水、過度の運動、労役、疲労、石|曳《ひ》き、不眠、徹夜、硝酸水および睡蓮《すいれん》の煎《せん》じ薬の飲取、罌粟《けし》および馬鞭草《くまつづら》の乳剤の摂取、それに加うるに厳重なる断食をもって腹を空《から》にし、その上になお冷水浴、草の帯、鉛板着用、鉛酸液の洗滌《せんじょう》、酸水剤の温蒸。」
「僕はそれよりも女を選ぶ。」とリストリエが言った。
「女!」とトロミエスは言った。「女を信ずるな。女の変わりやすき心に身を投げ出すものは不幸な
前へ
次へ
全639ページ中297ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング