というのは心もまた飢えるものだから、彼女は愛した。
 彼女はトロミエスを愛した。
 男の方には情欲があり、女の方には熱情があった。学生やうわ気女工らが蟻《あり》のように群らがってるカルティエ・ラタンの小路が、二人の夢の初まりの場所だった。ファンティーヌは、多くの情事が結ばれ解けるあのパンテオンの丘の迷路で、長い間トロミエスを避けながら、しかもいつもまた彼に出会うようにした。さがすのに似た隠れ方があるものである。要するに、牧歌の恋が起こったのである。
 ブラシュヴェルとリストリエとファムイュとは一種の党をなしていて、トロミエスはその首領であった。機才のきいてるのは彼だったのである。
 トロミエスは年とった古書生だった。金持ちで年に四千フランの収入があった。年に四千フランといえば、サント・ジュヌヴィエーヴの山([#ここから割り注]訳者注 パンテオンの丘[#ここで割り注終わり])では素敵な評判のものだった。トロミエスは三十歳の道楽者で、身体は衰えていた。しわがより、歯が抜けていた。頭がそろそろ禿《は》げかかっていたが、彼は平気で自ら言っていた、「三十歳にして禿げ[#「三十歳にして禿げ」に傍点
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