製造して五十万ばかりを得たのだった。一生のうちで彼は一人の不幸な人にも施しをしたことがなかった。がこの説教いらい、大会堂の玄関にいる年をとった乞食《こじき》の女どもに、日曜ごとに一スー([#ここから割り注]訳者注 一スーは一フランの二十分の一[#ここで割り注終わり])を与えている彼の姿が見られた。その一スーを乞食の女たち六人は分けなければならなかった。ある日司教はジェボランがいつもの慈善をしているのを見て、ほほえみながら妹に言った。「そらジェボランさんが一スーで天国を買っているよ[#「そらジェボランさんが一スーで天国を買っているよ」に傍点]。」
 慈善に関する場合には、司教はたとい拒まれてもそのまま引っ込むことをしなかった、そして人をして再考せしむるような言葉を発するのだった。かつて彼は町のある客間で、貧民のために寄付金を集めたことがあった。そこには、老年で富裕で貪慾《どんよく》で、過激な王党であるとともに過激なヴォルテール党ともなるシャンテルシエ侯爵がいた。そういう変わった男もずいぶんいたものである。司教は彼の所へ行ってその腕を捉《とら》えた。「侯爵[#「侯爵」に傍点]、あなたは私に
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