れで万事終わったのである。
 彼は大海のうちにある。足下には逆巻き流るる水のみである。風に砕け散る波は不気味に彼をとり巻き、深海のうねりは彼を運び去り、あらゆる水沫《すいまつ》は彼の頭のまわりにざわめき、無数の波は彼の上に打ちつけ、乱るる水の間に彼は半ばのまるる。下に沈むたびごとに、彼は暗黒な深淵をかいま見る。恐るべき名も知れぬ海草は彼を捕え、足に絡《から》み、彼を引き寄せる。彼はみずから深淵となるのを感ずる。彼は泡沫《ほうまつ》の一部となり、波より波へと投ぜられ、苦惨を飲む。太洋は彼を溺らさんとして、あるいは緩《ゆるや》かにあるいは急に襲いかかり、その広漠は彼の苦痛を弄《もてあそ》ぶ。それらすべての水はあたかも憎悪のごとくである。
 それでも彼は争う。彼は身を守らんと努め、身をささえんと努め、努力し、泳ぐ。直ちに消耗するそのあわれな力をもって、彼は尽きざるものに対して戦う。
 船はどこにあるのか。かしこに。水平線のおぼろな闇《やみ》の中にかろうじて姿が見える。
 ※[#「颱」の「台」に代えて「炎」、第4水準2−92−35]風《ひょうふう》は吹きつのる。あらゆる水沫は彼の上よりかぶさる
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