すきでしょう。慈善に一晩泊めてくれる人もありましょうのに。」
「どの家《うち》も尋ねてみたんです。」
「それで?」
「どこからも追い出されたんです。」
 その「親切なお上《かみ》さん」は男の腕をとらえ、広場の向こう側にある司教邸と並んだ小さな低い家を指《さ》し示した。
「あなたは、」と彼女は言った、「どの家も尋ねてみられたのですか。」
「ええ。」
「あの家を尋ねましたか。」
「いいえ。」
「尋ねてごらんなさい。」

     二 知恵に対して用心の勧告

 その晩ディーニュの司教は町を散歩した後、かなり遅くまで自分の室にとじこもっていた。彼は義務[#「義務」に傍点]に関する大著述にとりかかっていた。この著述は不幸にも未完成のままになっている。司教は教父や博士らがその重大な問題について述べた所のものを注意深く詮索《せんさく》していた。彼の著述は二部に分かたれていて、第一はすべての人の義務、第二はおのれの属する階級に応じての各人の義務。すべての人の義務は大なる義務であって、それに四種ある。使徒マタイはそれをあげている、神に対する義務(マタイ伝第六章)自己に対する義務(同第五章二十九、三十節
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