男が答えた。
「それでもあの室に燈火《あかり》が見える。」
二人にはジャヴェルの声だとわかった。
その室は、扉《とびら》を開くとそれで右手の壁のすみが隠れるようになっていた。ジャン・ヴァルジャンは手燭の火を吹き消した、そしてそのすみにはいった。
サンプリス修道女はテーブルのそばにひざまずいた。
扉《とびら》は開かれた。
ジャヴェルがはいってきた。
数人の者のささやく声と、門番の婆さんの言い張る声とが、廊下に聞こえていた。
修道女は目をあげなかった。彼女は祈っていた。
蝋燭《ろうそく》は暖炉の上にあって、ごく淡い光を投げていた。
ジャヴェルは修道女を見て、茫然《ぼうぜん》と立ち止まった。
ジャヴェルの根本、彼の元素、彼の呼吸の中心、それはあらゆる権威に対する尊敬であったことは、読者の思い起こし得るところであろう。彼はまったく単一であって、何らの異論も制限も容《ゆる》さないのだった。もとより彼にとっては、宗教上の権威はすべての権威の第一なるものであった。彼はこの点について他のあらゆることについてと同じく、厳格で皮相的で正確だった。彼の目には、牧師は誤りをすることのない者であり、修道女は罪を犯すことのない者であった。それはいずれも、真実を通す時のほかは決して開かぬただ一つの扉でこの世と通じてる魂であった。
修道女を認めて、彼の第一の動作は引き退《さが》ろうとすることだった。
けれどもまた、彼を捕え彼を反対の方向に厳として押し進めるも一つの義務があった。そして彼の第二の動作は、そこに立ち止まり、少なくとも一つの問いをかけてみることだった。
しかもそれは生涯に一度も嘘《うそ》を言ったことのないサンプリス修道女だった。ジャヴェルはそれを知っていた、そして特にそのために彼女を尊敬していた。
「童貞さん、」と彼は言った、「この室にはあなた一人ですか。」
恐ろしい一瞬間があった。あわれな門番の婆さんは気が遠くなるような心地がした。
修道女は目をあげて、そして答えた。
「はい。」
「だが、」とジャヴェルは言った、「しつこく言うのをお許し下さい、私の義務ですから。あなたは今晩、だれか、一人の男を見かけませんでしたか。その男が逃走したのでさがしているところです。あのジャン・ヴァルジャンという男です。あなたはその男を見かけませんでしたか。」
修道女は答えた。「
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