のうちにあったに違いなかった。
 彼は近くの屯所《とんしょ》から一人の伍長と四人の兵士とを請求し、それを中庭に残して置き、ただ簡単にやってきたのだった。彼は門番の女からファンティーヌの室を聞いた。門番の女は兵士らが市長を尋ねてくるのは見なれていたので、別に怪しみもしなかったのである。
 ファンティーヌの室にくると、ジャヴェルは取っ手を回し、看護婦かあるいは探偵のようにそっと扉《とびら》を押し開き、そしてはいってきた。
 厳密に言えば彼は中にはいったのではなかった。帽子をかぶったまま、頤《あご》までボタンをかけたフロックに左手をつき込み、半ば開いた扉の間に立っていたのである。曲げた腕の中には、後ろに隠し持った太い杖の鉛の頭が見えていた。
 彼はだれにも気づかれずに一分間ばかりそうしていた。と突然ファンティーヌが目をあげて、彼を見、マドレーヌ氏をふり向かしたのだった。
 マドレーヌの視線とジャヴェルの視線とが合った時、ジャヴェルは身をも動かさず位置をも変えず近づきもしないで、ただ恐るべき姿になった。およそ人間の感情のうちで、かかる喜びほど恐るべき姿になり得るものはない。
 それは実に、地獄に堕《お》ちたる者を見いだした悪魔の顔であった。
 ついにジャン・ヴァルジャンを捕え得たという確信は、魂の中にあるすべてをその顔の上に現わさしたのである。かき回された水底のものが水面に上がってきたのである。少し手掛かりを失って一時シャンマティユーを誤認したという屈辱の感は、最初いかにもよく察知して長い間正当な本能を持ち続けていたという高慢の念に消されてしまった。ジャヴェルの満足はその昂然《こうぜん》たる態度のうちに現われた。醜い勝利の感はその狭い額《ひたい》の上に輝いた。それは満足したる顔つきが与え得る限りの恐怖の発現であった。
 ジャヴェルは、その瞬間に天にいたのである。自らはっきり自覚してはいなかったが、しかし自己の有用と成功とに対するおぼろな直覚をもって彼ジャヴェルは、悪をくじく聖《きよ》き役目における正義光明真理の権化《ごんげ》であった。彼はその背後と周囲とに、無限の深さにおいて、権威、正理、判定せられたるもの、合法的良心、重罪公訴など、あらゆる星辰《せいしん》を持っていた。彼は秩序を擁護し、法律よりその雷電を発せしめ、社会のために復讐《ふくしゅう》し、絶対なるものに協力し、自
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