た。もちろんそれは王政復古後のことであるのはいうまでもないことである。
「ブルヴェー、」と裁判長は言った、「その方は賤《いや》しい刑を受けたる身であるから、宣誓をすることはできないが……。」
ブルヴェーは目を伏せた。
「しかしながら、」と裁判長は続けた、「法律によって体面を汚された者のうちにも、神の慈悲によって、なお名誉と公正の感情はとどまり得る。今この大切なる時に当たって本官はその感情に訴えたい。なおその方のうちに、本官の希望するごとく、その感情があるならば、本官に答える前によく考えてみよ。一方には、その方の一言によって身の破滅をきたすかも知れない男があり、他方には、その方の一言によって公明になるかも知れない正義があるのだ。重大な場合である。誤解だと信ずるならばその方はいつでも前言を取り消してよろしい。――被告、起立せい。――ブルヴェー、よく被告を見、記憶をたどって、被告はその方の徒刑場の昔の仲間ジャン・ヴァルジャンであるとなお認むるかどうか、その方の魂と良心とをもって申し立ててみよ。」
ブルヴェーは被告をながめた。それから法官の方へ向き直った。
「そうです、裁判長殿。最初に彼を認めたのは私です。私は説を変えませぬ。この男はジャン・ヴァルジャンです。一七九六年にツーロンにはいり、一八一五年にそこを出たのです。私はそれから一年後に出ました。今ばかな様子をしていますが、それは老耄《おいぼれ》たからでしょう。徒刑場では狡猾《こうかつ》な奴でした。私は確かにこの男を覚えています。」
「席につけ。」と裁判長は言った。「被告は立っておれ。」
シュニルディユーが導かれてきた。その赤い獄衣と緑の帽子とが示すように無期徒刑囚であった。彼はツーロンの徒刑場で服役していたが、その事件のために呼び出されたのである。いらいらした、顔にしわのよった、弱々しい身体の、色の黄いろい、鉄面皮な、落ち着きのない、五十歳ばかりの背の低い男で、手足や身体には病身者らしいところがあり、目つきには非常な鋭さがあった。徒刑場の仲間らは彼をジュ・ニ・ディユーと綽名《あだな》していた。([#ここから割り注]訳者注 吾神を否定するという意味であってシュニルディユーをもじったものである[#ここで割り注終わり])
裁判長はブルヴェーに言ったのとほとんど同じような言葉を彼に言った。裁判長が彼に、その汚辱のために宣
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