いだれなのか。――では自分に似ているのか。――そんなことがあり得ようか。――昨日は自分はあれほど落ち着いていて何一つ夢にも知らなかったのに。――で昨日の今時分は何をしていたのであろう。――このできごとはいったいどういうのか。――終わりはどうなるのか。――どうしたらいいか。」
そういう苦悶《くもん》のうちに彼はあった。彼の頭脳はいろいろの考えを引き止める力を失っていた。考えは波のように過ぎ去って行った。彼はそれを捕えようとして、両手のうちに額《ひたい》を押しあてた。
彼の意志と理性とをくつがえしたその擾乱《じょうらん》、彼がそのうちから一つの的確なものを引き出し、一つの決心を引き出さんとしたその擾乱、それからはただ心痛のほか何物も出てこなかった。
彼の頭は燃えるようだった。彼は窓の所へ行って、それをいっぱいに開いた。空には星もなかった。彼はまたテーブルの所へきてすわった。
初めの一時間はかくして過ぎた。
そのうちしだいに漠然《ばくぜん》たる輪郭が瞑想のうちに浮かんできて一定の形を取るようになった。そして彼は自分の立場の全体ではないが、いくらかの局部を、現実の明確さをもってつかむことができた。
その立場はいかにも異常なものであり危急なものであるにしても、自分はまったくその主人公であることを、彼は認めはじめた。
彼の困惑はますます増すばかりだった。
彼の行為の目ざしていた厳格な宗教的目的をほかにしては、彼が今日までなしきたったすべてのことは、自分の名を埋めんがために掘る穴にほかならなかった。自ら顧みる時、眠れぬ夜半において、彼が最も恐れたところのものは、その名前が人の口から出るのを聞くことであった。その時こそ自分に取ってはすべての終わりであると思っていた。その名前が再び世に現われる時こそは、この新生涯も自分の周囲から消滅し、またおそらくはこの新しい魂も自分のうちに消滅するであろうと。彼はそういうことがあるかも知れないと思っただけで身を震わした。もしそういうおりにだれかが彼に向かって、やがて時が来るであろう、その名前が彼の耳に鳴り響き、その嫌悪《けんお》すべきジャン・ヴァルジャンという名前が突然夜の暗黒から姿を現わして彼の前につっ立ち、彼が身を包んでいる秘密の幕を消散させる恐るべき光が彼の頭上に突然輝くであろう、そしてまた、その名前はもはや彼を脅かさないであ
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