半だが、まあ二十里だね。」
「市長さん、」とフランドル人は言った、「間に合わせましょう。あのかわいい白馬です。時々歩いてるのを御覧なすったことがあるでしょう。下ブーロンネー産のかわいい奴《やつ》です。大変な元気者です。最初は乗馬にしようとした人もあったですが、どうもあばれ者で、だれ彼の用捨なく地面《じべた》に振り落とすという代物《しろもの》です。性が悪いというのでだれも手をつける者がなかったです。そこを私が買い取って馬車につけてみました。ところが旦那《だんな》、それが奴の気に入ったと見えて、おとなしい小娘のようで、走ることといったら風のようです。ええまったくのところ、乗るわけにはいきません。乗馬になるのは気に合わないと見えます。だれにだって望みがありますからな。引くのならよろしい、乗せるのはごめんだ。奴の心はまあそんなものでしょう。」
「その馬なら今言った旅ができようね。」
「ええ二十里くらいは。かけとおして八時間足らずでやれます。ですが条件付きですよ。」
「どういう?」
「第一に、半分行ったら一時間休まして下さい。その時に食い物をやるんですが、宿の馬丁が麦を盗まないように食ってる間ついていてもらわなければいけません。宿屋では麦は馬に食われるより廐《うまや》の小僧どもの飲み代《しろ》になってしまうことを、よく見かけますからな。」
「人をつけておくことにしよう。」
「第二に……馬車は市長さんがお乗りになるんですか。」
「そうだ。」
「馬を使うことを御存じですか。」
「ああ。」
「では馬を軽くしてやるために、荷物を持たないで旦那《だんな》一人お乗りなすって下さい。」
「よろしい。」
「ですが旦那一人だと、御自分で麦の番をしなければならないでしょう。」
「承知している。」
「それから一日に三十フランいただきたいですな。休む日も勘定に入れて。一文も引けません。それから馬の食い料も旦那の方で持っていただきます。」
 マドレーヌ氏は金入れからナポレオン金貨三個をとり出して、それをテーブルの上に置いた。
「では二日分前金として。」
「それから第四に、そんな旅には箱馬車はあまり重すぎて馬を疲らすかも知れません。今私の家にある小馬車で我慢していただきたいものですが。」
「よろしい。」
「軽いですが、幌《ほろ》がありませんよ。」
「そんなことはどうでもいい。」
「でも旦那、冬ですよ……
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