狂言」から十カ月過ぎ去ったのである。
 その十カ月の間にどんなことが起こったか? それは想像するに難くない。
 捨てられた後には苦境。ファンティーヌはすぐにファヴォリットやゼフィーヌやダーリアをも見失ってしまった。男たちの方からの綱が切れれば、女たちの方からの結び目も解ける。もし半月もすぎてから、お前たちは互いに友だちであったと言われたら彼女らはびっくりすることだろう。もはや友だちであるなどという理由はなくなったのである。ファンティーヌはただ一人になってしまった。彼女の子供の父はもう立ち去ってしまった――悲しくもそういう分離は再び元にかえすことのできないものである――彼女は全然孤独になってしまった。それに労働の習慣は薄らぎ、快楽の趣味は増していた。トロミエスとの関係に引きずられて、自分のできるつまらぬ職業を軽蔑するようになったので、彼女は世の中への出口を閑却していた。そしてその出口はまったく閉ざされてしまった。金を得る途がなかった。彼女はどうかこうか字が読めはしたが、書くことはできなかった。子供の時に名を書くことを教わっただけであった。彼女は代書人にたのんでトロミエスに手紙を書いてもらった、それからまた第二、第三と手紙を書いてもらった。がトロミエスはそのどれにも返事をくれなかった。ある日ファンティーヌは、おしゃべりの女どもが彼女の女の児を見て言ってるのを聞いた。「あんな子供をだれが本気にするものか。あんな子供にはだれだって肩をそびやかすばかりさ!」そこでファンティーヌは、自分の子供に肩をそびやかしてその罪ない児を本気に取ろうとしないトロミエスのことを思った。そして彼女の心はその男のことで暗くなった。それにしても、どう心をきめたらいいか? 彼女はもはやだれに訴えん術《すべ》もなかった。彼女は過《あやま》ちを犯したのであった。しかし読者が知るとおり、彼女の心底は純潔で貞淑だった。彼女は漠然《ばくぜん》と、破滅のうちに陥りかけてること、いっそう悪い境涯にすべり込みかけてることを感じた。勇気が必要だった。彼女は勇気を持っていた、そして意地張った。生まれ故郷のモントルイュ・スュール・メールの町に帰ってみようという考えがふと浮かんだ。そこへ行ったら、たぶんだれかが自分を見知っていて、仕事を与えてくれるかも知れない。そうだ。けれども自分の過ちを隠さなければならない。そして彼女は、
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