四十スー銀貨が彼の目にとまった。足で半ば地面の中にふみ込まれて、小石の間に光っていた。
あたかも電気に触れたかのようだった。「これは何だ?」と彼は口の中で言った。彼は三歩退いた。けれども、一瞬間前まで足でふみつけたその場所から目を離すことができなくてたたずんだ。闇《やみ》の中に光っているそのものを、見開いて自分を見つめてる何かの目のように感じたかのようだった。
しばらくしてから、彼は痙攣《けいれん》的にその銀貨の方へ進んでゆき、それをつかみ、身を起こしながら遠く平野のうちを見渡し初めた。脅かされた野獣が隠れ場を求むるかのように、突っ立ちながら身を震わして、地平線のかなたを方々同時に見回した。
彼の目には何にもはいらなかった。夜の闇は落ちかかって、平原は寒く茫漠《ぼうばく》としており、大きな紫の靄《もや》が夕の薄明のうちに立ち昇っていた。
彼は「ああ!」と嘆息をもらして、ある方向へ、少年の姿の消えた方へ、急いで歩き出した。百歩ばかりも歩いたのちに、彼は立ち止まり、あたりをながめたが、何にも見えなかった。
すると彼はあらん限りの声を搾《しぼ》って叫んだ。「プティー・ジェルヴェー! プティー・ジェルヴェー!」
彼は口をつぐんで、待った。
何の返事もなかった。
野は荒涼として陰鬱《いんうつ》だった。彼は広々とした空間にとりかこまれていた。まわりにあるものとてはただ、見透かせない闇と声をのむ静寂とばかりだった。
凍るような北風が吹いて、彼のまわりのすべてのものに悲愴《ひそう》な気を与えていた。あたりの灌木《かんぼく》はいうにいわれぬ狂暴さでそのやせた小さな枝をふり動かしていた。あたかもそれはだれかを脅かし追っかけてるがようだった。
彼はまた歩き出し、それからかけ出した。そして時々立ち止まっては、最も恐ろしいまた最も悲しげな声をしぼって寂寞《せきばく》の中に叫んだ。「プティー・ジェルヴェー! プティー・ジェルヴェー!」
もし少年がそれを聞いたとしても、必ずや恐れて身を現わさなかったであろう。しかし少年はもちろんもう遠くに行っているに違いない。
ジャン・ヴァルジャンは馬に乗った一人の牧師に出会った。そのそばへ行って言った。
「司祭さん、あなたは子供が一人通るのを見かけられはしませんでしたか。」
「いいえ。」と牧師は言った。
「プティー・ジェルヴェーというん
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